2025.09.16
不動産相続
家督相続と、事業承継と、不動産 ~家督を相続する「矜持と覚悟」~
かつての日本には、「家制度」と呼ばれる仕組みが存在しておりました。
この制度は、長い歴史を通じて受け継がれてきた「家父長制」に基づくものであり、それに従って「家督相続」が行われ、資産、特に不動産の承継がなされてきたのです。
実際、太平洋戦争の敗戦以前の相続においては、現在のような相続税や財産分割をめぐる混乱が、それほど深刻に生じることは少なかったようです。
しかし、敗戦後に施行された新しい日本国憲法のもと、「家制度」は廃止され、「個人中心主義」へと大きく舵が切られました。
この新たな制度には、国際的な人権思想に沿った肯定的な側面もある一方で、私たち日本人が古来から抱いていた価値観との間に、しばしば摩擦を生じさせる否定的な側面も見受けられます。
「家族」という概念の形が崩れ、それぞれの個が自己主張する時代になったことも、現代の相続問題が複雑化している一因であると言えるのではないでしょうか。
そこで本稿では、旧来の家制度と現代の相続制度との違いについて簡潔に整理してみます。
これらを理解したうえで、皆様がご自身にとって適切な相続や事業承継の準備を進めていただけることを願っております。
1.家制度について
かつての日本では、祖先から受け継いだ「家」、土地、組織(企業)そして血筋(氏)を守り、次世代へと引き継ぐことが、何よりも重んじられておりました。
この価値観を背景に、明治31年(1898年)には旧民法が制定され、法律として「家制度」が明文化されるに至りました。
この制度は、親族の中から特定の者を「戸主」と定め、その者を中心とする家族が「一つの家」に属するという形を取りました。戸主には、その家を統率する大きな権限が与えられていたのです。
この制度は、江戸時代に武士階級を中心に発展した家父長制的な家族構造をベースとしており、「戸主」は家の長としての地位と権限を法的に保障され、「家」は戸籍制度に基づき登録されていました。
2.家督相続の概要
戸主という地位は、財産権とともに「家督相続」という形で承継されました。これは単なる財産の継承ではなく、家の統率者としての地位そのものを引き継ぐ、極めて重要な制度でした。
この家督相続は、遺産相続とは異なり、常に「単独相続」が原則とされておりました。つまり、家のすべての財産と責任を、ただ一人の後継者が引き継ぐという仕組みです。
また、戸主の生前中でも、隠居や入夫婚姻、あるいは国籍喪失といった理由により、家督相続が発生する場合もありました。
原則として長男が家督を継ぐとされていましたが、仮に長男が不在の場合には、以下のような明確な順位に基づいて家督相続人が決定されました。
1. 同じ家に属する家族のうち、男女・嫡出子庶子・年齢の順により、上位の者
2. 旧戸主が生前に指定した者
3. 旧戸主の親や、親族会が選定した者
確かに、婚姻や養子縁組に際して戸主の同意が必要となるなど、戸主に過剰な権限が集中していた点は、制度の一つの課題でもありました。
しかしこのように、家督相続人(新戸主)となった者は、財産のみならず家の責任、親族への配慮、慣習の継承といった様々な役割を担っていました。
家督を相続する新戸主には、父祖からの財産を継承するとともに、これらを守っていく責任と重みも引き継ぐという「矜持と覚悟」も求められたのです。
3.家督相続から均分相続へ
昭和20年、我が国が太平洋戦争に敗戦し、GHQの占領下で新憲法が制定される中、旧民法は大きく改正されました。
その結果、昭和22年には家制度が廃止され、翌年1月1日から新たな民法が施行されました。
この法改正により、それまでの家督相続制度は姿を消し、長男・次男・長女・次女といった出生順や性別に関係なく、すべての相続人が平等に財産を受け継ぐ「法定相続制度」へと移行したのです。
4.現代の均分相続制度とその課題
戦後80年が経過した現在、日本では「家」や「地域」、「組織」や「団体」といった集団単位よりも、「個人」の権利や自由が強調される時代となりました。
この変化は、家督相続制度の廃止、戦後の教育方針、さらには社会全体の価値観の変化など、様々な要因によってもたらされたものと考えられます。
現行の均分相続制度は、形式的には公平な制度であるように見受けられますが、実際には相続をめぐる争いやトラブルは、戦前に比べて増加傾向にあるとされています。
とりわけ、代々受け継がれてきた土地を守らなければならない大地主や、企業の後継者問題に直面しているオーナー経営者にとっては、均分相続制度は非常に悩ましい制度でもあります。
現代においては、特定の後継者に全体を承継させることが困難となり、結果として土地や企業の分割、売却、場合によっては廃業に至る例も少なくありません。
まとめ:トラブルのない相続のために
土地を所有する方の後継者が家を承継する場合には、仏壇や墓所の管理をはじめ、先祖供養、親戚付き合いや地域活動といった、実に多くの負担と責任を背負うこととなります。
そのため、これらの現実をあらかじめ子どもたちに伝え、後継者にはその具体的なやり方を、他の相続人には後継者への配慮と感謝の気持ちを持たせておくことが、円満な相続のためには欠かせません。
また、大地主などの場合には、相続税が非常に高額となり、現金での納税が困難なこともあります。相続税対策を怠ると、やむなく土地を売却せざるを得なくなる事態も想定されます。
家督相続によって、自然な形で家が継承されていた時代とは異なり、現代において家や土地を守り続けていくためには、生前から法定相続にとらわれない遺産分割の方法や、相続税の納税計画をしっかりと立てておくことが必要不可欠です。
ご自身の意思を形にするためにも、早めの準備と家族間での丁寧な対話が何より大切です。
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